クラウドからオンプレミスまで、SAP と外部システムを SAP Integration Suite でつなぐ
はじめに
業務システムにおいて、SAP と他システムとの連携は欠かせない要素です。EC の受注データを SAP に取り込む、SAP の基幹データを分析基盤に同期する、オンプレミスのレガシーシステムと SAP のマスタを定期連携するなど、企業の業務には大小さまざまな連携シナリオが存在し、シナリオごとに対象システム・データ形式・送受信プロトコルは大きく異なります。
SAP S/4HANA Public Cloud(正式名称:SAP S/4HANA Cloud, Public Edition)では、On-Premise や Private Edition と異なり 従来型の ABAP カスタマイズ(標準コードの修正やカスタムプログラムの直接追加)が原則として制限されています。「これまで ABAP で実装してきたカスタム連携ロジックや、ファイル受け渡し・データベース連携といった既存の外部連携を Public Cloud でも実現できるのか」というご相談を、移行を検討中の企業様からよくいただきます。
結論から言えば、SAP BTP 上の SAP Integration Suite を活用すれば、SAP と外部システムとの双方向の連携をローコード中心で構築できます。Integration Suite は 多数のプリビルトアダプタ・ローコードの設計画面・データ変換機能 を 1つのツールに統合しており、必要に応じて SAP Cloud Connector と組み合わせれば、クラウドからオンプレミスのシステムにも安全に接続できます。本記事では、その全体像と、よくある連携パターンとして API による連携・データベースサーバとの連携・FTP サーバとの連携 をご紹介し、これらと組み合わせて使う SAP Cloud Connector によるオンプレミスシステム連携 を取り上げます。
SAP S/4HANA Public Cloud のシステム間連携とは
SAP S/4HANA Public Cloud のシステム間連携は、SAP BTP 上の SAP Integration Suite を中心に組み立てます。Integration Suite は SAP の標準統合プラットフォームで、iFlow(Integration Flow) と呼ばれるビジュアル設計画面上で、送信元・送信先のシステムや、データの取得・変換・ルーティング処理をローコードで設計できる仕組みです。
連携の方向としては、外部システムから SAP への取り込み(インバウンド連携)と、SAP から外部システムへの送出(アウトバウンド連携)の双方向に対応し、HTTP/REST・OData・SOAP・IDoc・JDBC(データベース)・SFTP/FTP・メール など、主要な通信プロトコル向けのアダプタが標準で多数用意されています。

Integration Suite での設計時イメージ
上図のように、iFlow では送信元(Sender)からスタートし、データの取得・変換・送出といった処理ステップをアイコンで配置・接続するだけで連携処理を組み立てられます。加えて、エラー発生時のリトライや Exception Subprocess による例外ハンドリング、並列処理による複数システムへの同時連携、データ変換(XML/JSON のマッピング、Groovy/JavaScript による加工)、ルーティング、運用モニタリングなど、エンタープライズ連携で必要となる機能が標準で揃っています。
本記事では、特に利用ニーズの多い 3つの連携パターン(API・DB・FTP)と、オンプレミスシステムへの接続を可能にする SAP Cloud Connector を順に取り上げます。
主要な連携パターン
① API による連携
最もモダンで広く使われる連携パターンが、REST API や OData、SOAP を介した API 連携です。Integration Suite は HTTPS・OData・SOAP などの API アダプタを標準で備えており、SAP S/4HANA Public Cloud が公開する OData/REST API と、外部システムの API を、iFlow 上で接続できます。

API 連携の特徴は、同期的なリクエスト/レスポンスのやり取りができる点と、リアルタイム性が高い点です。たとえば、EC の受注確定と同時に SAP に販売伝票を起票する、外部マスタの更新通知を即座に SAP に反映する、といったイベント駆動・リアルタイム連携に向いています。
iFlow には、受信したデータの変換(XML/JSON のマッピング、Groovy/JavaScript による加工)、ルーティング、エラーハンドリング、再送処理など、API 連携で必要となる処理をローコードで構成するためのステップが揃っています。
② データベースサーバとの連携
Integration Suite の JDBC レシーバアダプタ を使用することで、Oracle・Microsoft SQL Server・PostgreSQL・SAP HANA・DB2 など、主要なデータベースに直接接続できます。SELECT による参照、INSERT/UPDATE/DELETE による更新、ストアドプロシージャの呼び出しまで、一通りの SQL 操作に対応します。

DB 連携の特徴は、SAP 外で管理されているデータに直接アクセスできる点です。たとえば、SAP の販売データを外部の BI 用データベースに毎日同期する、外部システムが管理する商品マスタを SAP にバッチ取り込みする、といったケースで活用できます。
JDBC アダプタを利用するには、対象データベースに対応する JDBC ドライバを Integration Suite に登録する必要がありますが、登録後は接続パラメータと SQL を設定するだけで、コーディング不要でローコードに連携処理を構築できます。
③ FTP サーバとの連携
ファイル交換型の連携には、Integration Suite の SFTP / FTP アダプタ を使用します。SFTP(SSH File Transfer Protocol) と FTP/FTPS の両プロトコルに対応し、認証はパスワード・SSH 秘密鍵・証明書から選択できます。
実装パターンは、データの流れに応じて2つに分けられます。
- SFTP センダーアダプタ:FTP サーバから定期的にファイルをポーリングして取得し、Integration Suite で変換して SAP に取り込む(インバウンド)
- SFTP レシーバアダプタ:SAP のデータを Integration Suite で取得・変換し、ファイルとして FTP サーバへ書き出す(アウトバウンド)

FTP 連携の特徴は、取引先・既存システムとの間でファイル交換型の連携が必要なケースに対応できる点です。たとえば、取引先から SFTP で送られてくる発注データを毎日深夜に取り込む、SAP の出荷指示を CSV ファイルとして物流業者の FTP サーバに転送する、といったシナリオで広く使われます。
なお、セキュリティ観点から、新規シナリオでは平文の FTP よりも暗号化された SFTP または FTPS の利用が推奨されます。
3つの連携パターンの使い分け
実際のプロジェクトでは、業務要件に応じて API・DB・FTP を使い分け、あるいは組み合わせて利用します。それぞれの特性を整理すると、次のとおりです。

「即時性が必要」なら API、「外部 DB から直接データを取得したい」なら DB、「取引先と従来通りのファイル交換」なら FTP、というのが選び方の目安です。
ただし、これらは排他的な選択肢ではありません。たとえば「外部 EC の受注を API で取り込み、その後の出荷指示は取引先の FTP に書き出し、最後に売上実績を BI 用 DB に同期する」というように、1つの業務フローの中で複数のパターンを組み合わせるのがむしろ一般的です。Integration Suite は複数の iFlow を組み合わせて一元管理できるため、業務全体の連携を 1つのプラットフォーム上で運用できます。
オンプレミスシステムとの連携:SAP Cloud Connector
ここまでご紹介した API・DB・FTP の連携は、クラウド上の Integration Suite から、クラウド側にある(またはインターネット公開されている)相手システムに接続する前提です。一方、お客様社内のオンプレミスシステム(既存 ERP・レガシーデータベース・社内ファイルサーバなど)に接続したい場合は、別途 SAP Cloud Connector を組み合わせます。
SAP Cloud Connector は、お客様社内に設置する小型の Java エージェントで、オンプレミスから BTP へリバーストンネル接続を確立する仕組みです。これにより、以下のセキュリティ上のメリットが得られます。
- インバウンドのファイアウォール開放が不要:トンネルはオンプレミス側からクラウドへ張られるため、社内ファイアウォールに新たに穴を開ける必要がない
- オンプレミスシステムが社外に晒されない:Cloud Connector がリバースプロキシとして動作し、許可された接続のみを中継
- リソースパスマッピングによる細粒度のアクセス制御:BTP から到達できる内部ホスト・パスを明示的に限定可能

Cloud Connector を組み合わせれば、前述の API・DB・FTP いずれの連携パターンも、オンプレミスシステムに対して適用可能です。たとえば、SAP S/4HANA Public Cloud から、オンプレミスで稼働している既存の発注管理システムの API を呼び出す、社内データベースに JDBC で接続する、社内ファイルサーバに SFTP でファイルを配置する、といった構成を実現できます。
クラウド移行段階で「コア業務は SAP Public Cloud に移行、周辺システムは当面オンプレミス維持」というハイブリッドな構成を取る企業様にとって、Cloud Connector は中心的な連携基盤となります。
連携シナリオの具体例
ここまでご紹介した連携パターンを、実際の業務シーンでどう組み合わせるかをご紹介します。
シナリオ① 製造業:受注から出荷・実績連携までを一気通貫
EC や得意先のシステムから受注を受け取り、SAP で出荷指示を出し、物流業者にファイル連携し、最終的に実績を分析基盤に同期する、というフローでは、3つの連携パターンを組み合わせて使います。
- API 連携:EC・得意先システムから受注データを SAP に即時取り込み
- FTP 連携:SAP の出荷指示を CSV / EDI 形式で物流業者の SFTP サーバに転送
- DB 連携:SAP の売上・出荷実績を BI 用データベース(DWH)に毎日同期
それぞれの連携は別々の iFlow として実装しつつ、Integration Suite 上で一元管理できるため、業務全体を 1本の流れとして把握・運用でき、属人化や手作業による転記負担も大きく削減できます。
シナリオ② オンプレミスの人事システムとの双方向マスタ連携
既存のオンプレミス人事システムを当面残しつつ、SAP S/4HANA Public Cloud との間でマスタを同期するケースです。
- DB 連携 + Cloud Connector:オンプレミス人事 DB から従業員マスタの差分を毎晩取得し、SAP に反映(インバウンド)
- API 連携 + Cloud Connector:SAP 側の組織マスタ変更を社内 Active Directory にイベント連動(アウトバウンド)
Cloud Connector と Integration Suite を組み合わせることで、社内ネットワークのオンプレミスシステムとも安全に連携しつつ、API も DB も同じプラットフォームで一元管理できます。クラウドとオンプレミスを並行運用する移行フェーズにも適した構成です。
シナリオ③ 取引先 EDI ファイルの定型バッチ連携
取引先との EDI(電子データ交換)連携では、SFTP/FTP によるファイル交換が依然として主流です。
- インバウンド(取引先 → 自社):取引先 SFTP に置かれた発注ファイルを毎時取り込み → Integration Suite で取引先固有のフォーマットを SAP IDoc 形式に変換 → SAP に登録
- アウトバウンド(自社 → 取引先):SAP の受注・出荷確認を SAP IDoc 形式から取引先固有フォーマットへ変換 → 取引先 SFTP に配置
ファイル形式の変換・スケジュール実行・エラー時の再送なども、iFlow 上で一括設定できるため、取引先ごとに個別の連携プログラムを管理する従来型の運用負担を大きく削減できます。
まとめ
SAP S/4HANA Public Cloud のシステム間連携は、SAP BTP 上の SAP Integration Suite を中心に据えることで、ローコード中心で多様な連携シナリオに対応できます。必要に応じて SAP Cloud Connector と組み合わせれば、クラウドとオンプレミスをまたぐハイブリッドな連携も実現可能です。
主要な連携パターン
- API による連携:REST・OData・SOAP を介した同期的・リアルタイム連携(イベント駆動の業務連動に向く)
- DB サーバとの連携:JDBC アダプタによる直接 SQL 接続(外部 DB と SAP の間のデータ同期・バッチ取り込みに向く)
- FTP サーバとの連携:SFTP/FTP アダプタによるファイル交換(取引先・既存システムとのファイル連携に向く)
- オンプレミス連携:上記いずれのパターンでも、SAP Cloud Connector を組み合わせればオンプレミスシステムに安全接続可能
プロアクシアコンサルティングではこれまで多数の SAP 導入・システム間連携プロジェクトを支援してまいりました。SAP S/4HANA Public Cloud のシステム間連携についても、以下のようなご相談に対応しております。
- 連携要件のヒアリング・現行連携の可視化/再設計の検討
- SAP Integration Suite を用いた iFlow 設計・実装支援
- API 連携(REST/OData/SOAP)の設計・実装
- データベース連携(JDBC)の設計・実装
- ファイル連携(SFTP/FTP)の設計・実装
- SAP Cloud Connector の導入・オンプレミスシステム連携の設計・実装
- 既存のオンプレミス連携資産から Integration Suite への移行支援
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