学習タイプの把握とコンサルタントとしてのキャリア構築について

こんにちは。プロアクシアコンサルティングでビジネスソリューション事業部に所属しています M.S です。
エンジニアブログでは、SAP 新機能などのソリューション紹介をする記事が多いのですが、今回は趣向を変えまして、若い IT 技術者向けに、IT コンサルタントとしてのキャリア構築の方向性についてお伝えしたいと思います。

これまでの経歴

大学卒業後、小規模ソフトウェアハウスに所属してオープン系システム開発のプログラマーとして IT 業界のキャリアをスタートしました。その後、製造現場系のシステム構築を中心にプログラマー・SE の経験を積む中で SAP R/3 の存在を知り SAP R/3 の導入プロジェクトに関わった事を切っ掛けに、ERP 導入コンサルタントとなりました。

バブル崩壊後の不況下から20年以上の IT 業界経験の中で、順調にキャリアアップしていく人もいればなかなか伸び悩む人、諦めてしまう人も多く見てきました。特に伸び悩む人の中には、傍から見ていると『それが自分に向いているやり方』なのかあまり考えてないのではないか、と思われることも多くありました。

本稿では特に若い IT 技術者向けに、実例を交えつつ、自分に向いた方法でキャリアアップしていくやり方についてお伝えできればと思います。

成長する傾向と違い

プロジェクトの各フェーズにて、お客様から業務要件をヒアリングしたり、技術者同士で意見交換をしたりする中でそれぞれの考え方や意見を聞く中で、ほとんどの方が、知識や興味の傾向で大きく2つのタイプに別れる事に気が付きました。

私の見る限り、そのタイプによって向いている学習の仕方、知識の深め方の傾向が分かれる傾向にあります。向いていない学習の仕方をしても、なかなか効果が上がらなかったりします。

私はこれを『学習タイプ」と呼んでいます。

「狭く深く」 タイプ

一つは、特定の分野について深く知識・考察を深めているタイプです。ある分野に興味を持つと、時間の許す限りとことん深く理解しようとする傾向にあります。私はこちらを 「狭く深く」 タイプと呼んでいます。

経験の度合いによって、得意分野を1つだけ持っていたり、複数持っていても1つは「ここだけは負けない」といえる分野を持っていたりします。逆に、幅広い分野の『概略を押さえる』『複数の領域の間の調整をする』と言った事は (出来ないわけではありませんが) 苦手とする傾向にあります。

例えば、SAP 導入コンサルタントで言えば SD (販売管理) だけとか、複数モジュール担当できてもメインは PP、とかいうタイプですね。所謂『オタク』『マニア』と言われる人は大抵、こちらのタイプに当てはまると思います。

「広く浅く」 タイプ

もう一つは、特定の分野に特に深い知識を持ってはいないが、幅広い分野の知識を持っている人です。それ程時間を掛けずに要点、概略を押さえるのは得意で、色々な分野の事を把握していますが、詳細まで把握するのは逆に苦手とする傾向にあります。私はこちらを 「広く浅く」タイプと呼んでいます。

SAP 導入プロジェクトでは、全体を把握するマネージャーであったり、複数のチームをサポートするユーティリティプレイヤー的な存在の方はこのタイプが多いと思っています。
(「狭く深く」 タイプでこうした役割の方がいないわけではありません)

学習タイプはアプローチの違い

これらの学習タイプは、本人の性格や趣味趣向などによる傾向で、どちらが良い・どちらが悪いという物ではありません。

例えば、自分が 「狭く深く」 タイプだからと言って、プロジェクト全体の調整を行うプロジェクトマネージャーになれない、という訳では決してありませんし 「広く浅く」 タイプだからと言って特定分野のスペシャリストとなれない訳でもありません。単純に、そこに至るまでのアプローチが違う、ということです。

では、その学習タイプによって、IT 技術者としてキャリアアップしていくアプローチはどのように異なるのでしょうか。

「狭く深く」 タイプのアプローチ

「狭く深く」 タイプの場合、大きくキャリアを伸ばす人は、傾向としてまずは一つの分野にとことんまで集中しのめり込みます。

SAP 導入コンサルタントの場合、主だったトランザクションやカスタマイズ、それらの関連性を把握するだけでなく詳細なカスタマイズやテーブル内容、プログラムが読めるならどういうロジックが動いているか等、把握できる事はなんでも把握しようとします。

そうして深く深くまで追求しそれを身に付け、ある意味『悟った』状態になると別プロジェクトで更にその知識を深めたり、違う分野で応用することが出来るようになります。

アプローチの実例を挙げます。

S 氏はプログラマーだった当時、某工場の生産管理システム再構築のプロジェクトにて生産計画システムの実装を一人で担当する事になりました。
設計者からは、そのシステムで何をしたいかの説明を口頭で5分だけ、その場で書いた手書きの画面説明1枚だけを渡されどうやってそれが実現できるか試行錯誤しながら、途中で追加機能要望を (口頭で) 受けながら、4カ月かけてその生産計画システムを構築しました。

その時の経験で、生産計画という業務と動かすデータ、ロジックを詳細に理解した S 氏は別のシステム導入に携わりながら生産管理業務および関連業務の知識を深め、やがて SAP の PP (生産計画/管理) モジュール導入コンサルタントへと転身しました。

「広く浅く」 タイプのアプローチ

「広く浅く」 タイプの場合、大きくキャリアを伸ばす人は、「狭く深く」 タイプと違って特定の分野だけに集中しません。ある一つの分野に携わった際に、大まかに概略、要点を把握します。その後、関連する分野についても調べ概略や要点を押さえたうえで、概略を掴んだ分野間について関連性であったり影響範囲について把握しようとします。

そうして、広い範囲について関連性や相互影響性について把握できると、もっと広い範囲、違う分野でも同じ要領で概略や要点を押さえ、関連性を類推することが出来るようになります。

このアプローチを採った実例を示します。

N 氏はお会いした当時、SAP 導入プロジェクトにてアドオン設計 SE として参加していました。
彼はアドオン設計の際、機能に求められる業務要件や当該機能を利用する業務フローだけではなく、その前後含めた関連する業務を一通り把握しないと設計書が上手く書けない、という人で設計書そのものを仕上げる時間は長くかかる反面、品質はかなり高い物が仕上げる事が出来ました。

なので、切羽詰まったプロジェクトよりも、多少納期に余裕があっても品質がまず求められるプロジェクトで重宝されていました。

そうして N 氏が幾つかプロジェクトを経験した後、業務要件を広く把握してから設計書を書くという特性に目を付けた N 氏の上司が別プロジェクトの要件定義フェーズに N 氏を参加させた所、その経験から業務の広い範囲にわたって概略を押さえていた N 氏はお客様の話がすんなり理解でき、課題の洗い出しや解決に貢献しました。更に経験を積んでからは、異なる業務領域間に目が行き届くようになり、外資系コンサルティングファームのマネージャーとして転身しました。

「狭く深く」 「広く浅く」 からその先へ

この様に、自分の学習タイプによって、キャリアアップの為に取り得るアプローチは異なります。
「狭く深く」 であれば特定の分野の深堀り、「広く浅く」 であれば幅広い分野の関連性について要領を掴む事でキャリアアップを進めていく事が出来ます。
ただし、このアプローチだけでは限界もあります。

「狭く深く」 を突き詰めて特定の分野での専門家になっても、他の分野に携わらなければ、特定分野以外で生かせない潰しの効かないキャリアになってしまいます。
「広く浅く」 を突き詰めて幅広い分野の概略を把握しても、深くまで立ち入った分野が無ければ、底の浅い器用貧乏なキャリアになってしまいます。

では、「狭く深く」 「広く浅く」 のアプローチで、ある程度のキャリアまで進んでいったら、その先はどうするのでしょうか。先に答えを言ってしまうと、「広く深く」 を目指す事で、更なるキャリア構築を進めます。

「広く深く」 へのアプローチ

「狭く深く」 タイプの場合は、特定の分野を深く掘り下げて全体を把握すれば、その分野について大体の要領を掴むことが出来ます。自分の核になる特定分野の要領を掴んだ時、別分野に取り組む時にその分野との関連性や、あるいはつかんだ要領そのものを他の分野でも生かせていくことが出来ます。
この時、新しい分野について概略を押さえている 「広く浅く」 タイプの協力を得られると、その分野を理解するスピードが高まります。

「広く浅く」 タイプの場合、幅広い分野での概略、要点を押さえていても解決出来ない課題が出てきます。その際に、その分野について深く理解を持つ 「狭く深く」 タイプの協力が得られると、浅かった理解内容がさらに深まっていきます。
そうして、色々な分野で深い知識を得て、把握している 「概略」 レベルの知識が深まっていくと、対応できる内容が広がっていきます。

このように、自分と異なるタイプ、自分と違う知識を持っているメンバーとの協力により、キャリアを更に進めていく事が出来ます。勿論、これには他と協力できる協調性やコミュニケーションと言った要素は必要不可欠となっていきます。また忘れられがちですが、色々な物事に関心をもつ 「好奇心」 も重要です。好奇心が維持できるよう、心の余裕、メンタルケアについても重要なのですが、ここまで行くと本稿の趣旨からは逸れてしまうので割愛させて頂きます。

この 「広く深く」 アプローチを

私の先輩にあたる W 氏ですが、元々は恐らく 「広く浅く」 タイプだったと思います。
彼はマネージャーとしてプロジェクトの実施に関わる全体調整等を行う傍ら、趣味で自作 PC 作成やサーバー構築、ホームページ作成など色々な事に手を出していて、とにかく好奇心旺盛で色々な情報を常に入手しており、質問すれば大抵の事であればかなり突っ込んだ内容や、彼なりの見解を返してくれる人でした。

その場で答えが返ってこなくても、数日後にはかなりの内容が返って来る感じでした。その幅広く深い知識を買われ、彼はやがて事業部長として数百人単位の組織の舵取りを任されるようになりました。

最後に

ここまで、大まかに 2 つに分けた学習タイプごとの傾向とキャリアの方向性、さらにその先へのアプローチについて述べました。

IT 技術者の皆さんが、技術者としてどういうアプローチで成長していくのかは、自分で考えていかなければなりません。特に若い技術者の皆さんが、御自分のキャリアアップを考える際に、本稿が参考になれば幸いです。